禅居庵摩利支尊天堂(京都市)(2004年2月)

 それは、白壁の角からにょきと屹立していた。

 「マリシテンって知ってる。かげろうの神さんなんよ。」

彼女の説明は、摩訶不思議であった。突き出した看板には、”摩利支天・勝運の神様”みたいなことが書いてある。でも、かげろうみたいにはかないものが、どうして勝負事の神さんなわけ?さらに、”亥年の神さん”ともある。何を隠そう、私は猪突猛進のいのしし年生まれだ。仏縁を感じて、肌身に寒さ堪える2月の夕刻、摩利支尊堂の門をくぐった。

 

境内は、こじんまりしている。ほのかにオレンジ色のちょうちんが、茫洋と灯り、穏やかな気分にさせてくれる。しかし、いきなり驚いた。狛犬が猪になっている。鼻と牙をやおら暗くなってきた天に向け、2対の猪が本堂の前におわしますのである。

岡山で和気清麻呂を祀る神社で狛犬ならぬ狛いのししを見たことはあるが・・・

これは、ただ事でないお寺ぞ!社務所の方に尋ねると、親切にそのわけを教えてくれた。「いのししは、摩利支天尊の乗り物なんですよ。」

お寺のお札を見てぶったまげた。確かに、仏さんが猪に乗っておられる。しかも7匹だ!シュールすぎる。かわいいお顔をされた仏さんは猪に乗ってやってくる。そして、その正体たるや昆虫のかげろうでなく、陽炎なのである。もとは、インドの神様で、陽炎を神格化した女神として一般に祀られている。『摩利支菩薩陀羅尼経』には、この神様を念じれば、その人は人から見えず、捕らえられず、害されない、財産も失わないといい、陽炎のごとく摩利ちゃんが衆生を救ってくれるのだ。そこから、この本尊を拝むことで、護身・隠身が行えると中世より、武士の間で大いに信仰された。特に、前田利家などが有名で、冑の中にこの摩利支天を入れて出陣したという。そこから、勝運の神さんというわけだ。

この摩利支天さん、お姿を拝めるのは1年に1回、10月20日のみ。あとは、お札を買って拝むほかない。私も仕方なく、仏友(言うまでもなく円瓢)と自分用に『洛東禅居庵摩利支天尊影』(お札は右から)とかかれたファンキーなお札を購入させていただいた。

また、この禅居庵摩利支尊天堂は日本三摩利支天のうちのひとつで、あと前田家のお膝元石川県の摩利支天、東京上野の広小路摩利支天がある。摩利ちゃんについての詳細は、さきの加賀の摩利支天。宝泉山寺のHP(http://marici.tv/)を参照されい。これは、秀作ぞ。

さあ、おぬしらも陽炎のようにこっそり、徳を授かって来い!

禅居庵摩利支尊天堂(京都市東山区大和大路四条下る四丁目小松町146)

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