たけのこから達磨さん(2019年4月・京都府八幡市・円福寺)

テレビをなにげにつけると、「長岡京たけのこフェスタ」のことを放送していた。
「たけのこ食べたいなぁ」
旬の朝取れのたけのこは絶品のおいしさである。
だが…。
「朝からたくさんの人が並んでいたのですが、もういまは売り切れです。
あしたまた会場に並びますので、そのときをお楽しみに…」
え、まだ午前中だがもう売り切れなんかい!
親切といえば、親切。がっかりといえば、がっかりの番組だった。
たけのこが頭から離れない。
だが、面白い情報がネットに上がっていた。
「4月20日に京都・八幡の円福寺で春季万人講」
聞いたこともないお寺だな?
そう思いながら、堀り進めると、
なんと「たけのこの料理がいただける」とあるではないか!
そこ、行ってみよ!
それにしても円福寺とは聞き慣れない。
それもそのはず。臨済宗妙心寺派の専門道場。
普段は門を閉ざす修行僧のための寺院なのである。
それが春と秋のみ1日だけ公開する。
春は、地元の名産・たけのこが料理にのぼるというわけです。
それにしても、京阪・樟葉駅で降りるのも初めて。
だが、ありがたいことにこの日のために、直通バスが用意されている。
(料金はかかります)
住宅地を通り抜けて、約10分、円福寺に到着した。
こんなところが、住宅地の中にあったのか…。
参道では手芸品を売る店がポツポツ。
両脇を緑に囲まれた石畳は、一瞬にして別世界に誘ってくれる。
いい名刹風情がある。
それにしても、こんなマニアックなところに人が来るのか…。
そう思っていたが、三門をのぞくと、ビックリ。
年齢層は高めだが、100人以上はおられる。
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「無料でもお入りできますよ」
笑顔で応対してもらったが、むろんわたしはたけのこが食べたい。
「お弁当をいただけますか?」
1000円を差し出し、引換券をいただいて、三門をくぐった。
こまごまとした工夫が小憎い。
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禅堂に入ると、座禅をする道場になっており、巨漢のお坊さんが2人笑顔で座られている。
前に座ると、お経を唱えながら、警策(座禅で喝を入れるやつ)でポンポンと肩や背中を叩いてくれる。
「肩こりも取れて、心も楽になる」とある。
「どれどれ」と叩いてもらうと、大きな音の割には痛みはない。
むしろ、心地よかった。叩き方にもコツがあるのだろう。
(知人に聞いた話では、修行のとき、本当の喝を入れられるときは、警策を縦に構えて、肩の骨の当たりを強打されるという)
禅堂を出ると、トイレがある。
禅宗でいう東司(とんす)である。
見ると、「トイレの神様」であられる烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)がおられる。
とりあえず、頭を下げていると、お寺方から説明があった。
「ここにある笠をかぶり、烏枢沙摩明王の真言を唱えて、トイレを1周すると、
下の病気に煩わされることがなくなります」
なるほど、よく考えたものだ。
でも失礼ながら、微妙かな。
ほほえましいコンテンツだが、今回はパスさせていただいた。
(信心深い方はトイレを1周して、烏枢沙摩に祈りを捧げていました)
そして、ようやく本堂へ。
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法話の最中で、少し疲れてもきたので、椅子に腰掛けた。
法話を聞いていると、朝に「今年の漢字」で有名な清水寺・森管長が法話を行われたらしい。
端に「令」「和」と書かれているのは、その残滓か…。
テレビではよく見るが、「生漢字」ならば一度は見ておいてもよかったか。
ウィキペディアによると、あの12月にやる「今年の漢字」は会場で紙を渡されるまで、森管長は知らないのだそうである。つまりぶっつけ本番。
これはなかなかの驚きであった。
それはそうと、春季万人講のメインイベントは、この本堂の達磨像なのである。
おそらくご住職であられる法話の主の奥に、おわします。
なにが言いたいのかというと、ちと見にくいのだな。
法話もやっているので、前の方に「どれどれ…」といくのもはばかれるし。
眼鏡をかけ、目にすべての神経を集めて、なんとかご対面した。
黒ずんだこのお方が日本最古とされる達磨さんなのである。
黙して語らず。正真正銘の達磨さんであった。
この達磨さんの謂れがなかなか興味深い。
聖徳太子も絡んでくるのだ。
ときは飛鳥時代、聖徳太子が片岡山(奈良県北葛城郡)の辺りを馬で進んでいると、
飢え死にしそうになって倒れている人がいた。
眼光鋭い飢え人は、異形の相だったいう。
太子はもちろん、手をさしのべ、丁重に扱いましたが、あえなく亡くなる。
墓をつくり、葬りましたが、太子は「あの方は聖人に違いない」と気になって仕方がない。
使いのものが墓を掘り起こすと、
不思議なことに太子が与えた衣のみが丁重に棺の中にあったといいいます。
ここから、その聖人は達磨大師の化身であるとの話が伝わります。
聖徳太子はその後、自ら達磨大師の像を刻み、寺に納めたといいます。
それが奈良県北葛城郡王寺町の達磨寺の話。
もちろん、今でも達磨像があります。
室町時代の作ですが、そこは突っ込まないのが大人の作法というもの。
では、円福寺の日本最古という達磨像は?
こちらの謂れによれば、達磨寺の火災により、太子自作の御像は片岡家に渡ります。
しかし、片岡家の衰退により、京都府八幡市の石清水八幡宮の別当・田中家に託されます。
その後、田中家が火事。だが、またもこの尊像は助かった。
そこで、田中家の方が「お寺で預かっていただこう」と、開山を前にした円福寺に譲ったといいます。江戸時代で、それが今に至っている。
流転の歴史をたどった達磨さんは、黒光りする体に霊力が蓄えられているようにも見える。
そんなありがたい尊像が、よく見えない…。
ただね、さっきの聖徳太子が飢えた聖人と出会ったという伝説は、
「片岡山伝説」として日本書紀にも載っている有名な話である。
正確にいえば、ここでは達磨大師ではなく、単に「聖」に会ったということになっている。
ではなんで、突然達磨大師が出てくるのか?
これがまたややこしくて、面白そうな話なのである。
つじつまの合わないところはご愛敬。少々おつきあいあれ。
中国で「大唐七代記」という書物があった。
ここには天台宗の祖師・天台智顗(ちぎ)の師匠・慧思(えし)の6度に渡る転生譚が書かれている。
慧思は達磨大師から「東方に仏教を広めよ」的なことをいわれたとある。
これが日本からの留学僧などにより伝わり、聖徳太子が慧思の生まれ変わりとなり、
さらに倒れた聖人が、達磨大師に昇華されたのである。
つまり、聖徳太子と達磨大師のつながりは、奈良時代から説話として存在していた。
だが、それが広がるのは鎌倉時代の太子信仰を待つことになるのであろう。
達磨大師というところもミソかもしれない。
鎌倉時代は新旧の仏教が勃興していた。
そこには、達磨宗という宗派もあったという。
HPからの拝借で恐縮だが、能忍という僧侶が、自ら大悟にいたり、興した禅宗の教えだという。そこらへんが、達磨大師に似ているのであろう。
今では存在しない宗派だが、日蓮が批判対象として触れるなど、
当時はそれなりの力を持っていたのかもしれない。
事実、能仁の弟子筋の1人、懐奘は、道元のもとに走った。
懐奘は永平寺の創建に深く関わり、道元の次の2世ともなり、「正法眼蔵」の編集も
彼の尽力によるものである。
宗教の玉石混交の中、出現した達磨宗は、既存仏教からも叩かれたのであろう。
そこで達磨大師の力や当時、民衆が帰依した聖徳太子の力も借り、布教を進めたのではないか。だが、力尽き、曹洞宗のもとに習合。
そのあだ花が、達磨と聖徳太子の伝説への信仰につながったのではないか?
現在、達磨寺は円福寺と同じ臨済宗で、達磨像もある。
「どちらが本物?」と野暮なことは聞かない。
信仰を担保する伝説というのは、両寺ともに必要であったのだから。
こんなことに思いを馳せながら、遠方の達磨像を拝むと、ありがたさも増してくる。
深々と頭を下げ、次の間に向かった。
たけのこの間、いや御殿は奥まったところにあった。
渡り廊下のようなところを上がっていく。
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こうして歩くと、さすが修行道場といった広さが実感できる。
そして、御殿に到着。もうほとんどの方が、食事を終えられているらしい。
渡されたお弁当を開けてみる。
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おお、はやりたけのこが添えられている。
説明しておくと、京都はたけのこの産地として知られる。
平成29年統計で全国4位なのだそうだ。
平安時代に、空海の10大弟子の1人、道雄(どうゆう)という僧侶が、
唐より孟宗竹を持ち帰り、京都・長岡京に開基した海印寺で栽培したのが起源という。
ちなみに1位は福岡。北九州の「合間たけのこ」というのが有名らしい。
このお寺でも、境内に竹林が広がる。
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お坊さんに聞くと、ここでもたけのこを取るのだという。
これが絶品。軟らかく煮られたたけの甘さが、ほんのり口の中で広がっていく。
たけのこ入りのお汁までいただき、大満足である。
達磨大師のお札もついている。これでたった1000円。
給仕は、お坊さんがつとめてくれている。
うやうやしく、お茶やお汁を運んでくれる。
せっかくなので、少し話を聞いてみた。
「このお寺では20人ぐらいが修行しています。全国から集まっていますよ」
でも修行って、どんな感じなのだろうか?
「うちでは托鉢行がありまして、ここから寝屋川まで行ったりしますね」
片道3時間かかることもあるというから、結構な行である。
あと、周辺の人に聞くと、川の土手を笠をかぶった僧侶の隊列を見ることもあるという。
たけのこが美味しかったとお礼をいうと、こんなことも教えてくれた。
「冬は大根ツリーが見られるんですよ」
大根ツリー!?
聞けば、12月の托鉢でもらった大根を漬け物にするため、
寺の大イチョウの木に干すのだという。
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その様が大根ツリーになるというのだ。
そうしてできたたくわんが、この万人講でも出されているのだという。
あの味の濃ゆいたくわんか!
「また10月のご参拝のときにお越しください」
いやぁ、都会の喧噪を忘れさせてくれる一陣の涼風のような体験であった。
参道にでまだたけのこが売られている。
どれ、家でたけのこご飯でも食べてみるか。
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●円福寺
  京都府八幡市八幡福禄谷153
  京阪・樟葉から臨時バスで直行
   *公開は4月20日、10月20日のみ
  電話075-981-0142

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