本当のところはわからない(2019年1月・兵庫県丹波市・達身寺)

いったい何曲入っているんだろう?
正月早々、先輩と丹波の古寺巡りなのだが、車のBGMは
決まって大音量のロケンロール!
イギーポップ、クイーンから始まり、浅井健一など日本ものになると、ついて行けない。
でも、先輩のロック愛は道中、びんびんに伝わってくるのだけは確かだ。
 
正月3日で高速も丹波路はスイスイ。ハイテンションでお寺に向かった。
神戸から北に2時間ほど。のどかな農村風情の残る兵庫県丹波市に到着した。
 
目指すは先輩が「10年前ぐらいに行ったかなぁ」という達身寺。
丹波という地は、私にとり未開に近いのだが、お寺は少しは知っているつもりだったが、皆目聞いたこともない。
 
駐車場はガランとしていて、テントの下で当番の村人が数人いるだけ。
たき火に当たっていた古老が、イスから重い腰を上げ、親切に案内してくれた。
(案内するまでもなく、すぐ目の前であったが…)
石垣に伝って見上げると、なんとも風雅な茅葺きのお堂が。
 
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短い石段を上がり、履き物を脱いでお邪魔した。
このお寺は、行基開基ともいわれるが、詳しいところはわからない。
以前から大きなお寺であったであろうが、明智光秀の丹波攻めで灰燼に帰し、
江戸時代に再び堂宇が整えられ、曹洞宗の寺院として今に至っている。
 
本堂で軽いお参りを済ませると、奥に案内される。
ここまでは、どこにでもある田舎寺。
ところがどっこい、こちらからが見どころになる。
 
本堂から伸びる木張りの廊下は、足の裏から体の芯を凍えさせる。
しかし、それもすっ飛んでしまうほど度肝を抜かれる展示があったのだ。
 
天井が高い開けた広間には、木造のひな壇。そこには数多の仏像たちが威を競い合っていた!
このお寺には80体近くの仏像があるらしいが、目の前には50体はおられるであろう。
これだけの仏像が並ぶ様は壮観そのもの。
ただ破壊されたのか、腕がなかったり、顔が彫られていなかったりだが、それゆえに個性的。
みなが仏として、壇の上から自己主張を続けている。
 
言葉を失っていると、ガイドさんらしき妙齢のご婦人が、流れるような説明を加えてくれた。
 
「こんなに多くの仏像が集められているか? 戦乱による被害から守るためここに集められたともいいます。
でも、どうして兜跋毘沙門天(とばつびしゃもんてん)の像ばかりがあるのか?
古文書などの記録がないので、全くわかりませんが、ある郷土史家さんは『ここが丹波仏師の工房で、
だから作りかけの仏像が多くあり、同じ種類の仏像が多いのではないか』と話されています。諸説あるんですよ」
 
う~ん、工房説が一番しっくりきそうだ。
それにしても、足裏の感覚がなくなりそうなほど寒い。というかもう痛い。
もっと彼女の説明を聞きたかったが、まだ他に収蔵庫があるともいうので、場所を移した。
 
スリッパを履いて、次なる建物に移動。
案内されたのは、立派な収蔵庫。こちらこそが、真の見どころだったのである。
今度は完成形の仏像が10体強。中央の阿弥陀如来座像をはじめ、立派なお方が並んでおられる。
 
「すごいやろ」
 
圧倒されっぱなしの私を見て、安心したのか、先輩も鼻高々だ。
いや、ほんまにスゴイ寺である。
わたしが気に入ったのは、左側におられた地蔵菩薩座像。
きめ細かい仕事で繊細なのだが、首から下と頭のバランスを無視して、少し頭がデカイ。
でもそこが漫画チックでで愛らしい。
仏像では見たこともない造形なので、見入ってしまった。
先輩は木目のわかる荒々しい右側の座像に釘付け。確かに視線も野生味があり、いかにも地方仏の風情である。
こちらはこちらで見応えがある。
 
ガイドさんに変わって、お寺の方が説明を始めてくれた。
 
「ここの仏像はお腹が少し出ているものが多いんですよ。これが特徴で『達身寺様式』といわれているんです」
 
ん! 確かに、見れば細身の観音さんも兜跋毘沙門天も、異様に腹が出ている。ぽこっと。
妊婦さんのようである。
指摘されて見ると、奇天烈な感じもするのだが、ほかもそうであれば、見事な様式美というような気もしてくる。
 
「これは俺も前に来たとき、気付かんかったわ」
 
先輩もうなる。
でも、これってどういう意味なんだろ?
 
先のお坊さんは「中国では、お腹が出ているというのは、福徳の象徴で、その意味を込めて、
中国など異国から来られた仏師さんが作ったのでは?」ともっともらしい説を開陳する。
 
「ただ、資料がないので本当のところはわかりませんが…」
 
このお寺の人は実に実直である。
わからないことは断言しない、どこぞの政治家の御仁に学んでほしいところである。
 
ただ、ここにおられる仏さんの仕事レベルはキレッキレである。
高い技量を持った仏師が集まり、しのぎを削っていたと想像してみると、わくわくする。
さらに面白い話もしてくれた。
 
「快慶さんが来たとする説もあるんですよ」
 
快慶とは、運慶と並び称される鎌倉を代表する仏師であり、運慶と対照的な繊細な作風で知られる。
 
「東大寺の古文書に『丹波講師快慶』という記述があるんです。
つまり、『私は丹波にゆかりがある仏師である』と言われているんですね」
 
考えてみれば、少し南に行った三木市には西日で輝くことで有名な浄土寺・阿弥陀三尊像があり、
北に行けば舞鶴や宮津にも快慶作の仏像は存在する。
通り道の丹波で、快慶が逗留していたとしてもなんの不思議もない。
 
ただ彼は付け加える。
 
「本当はわからないですけど」
 
そこまで気を遣わなくても、大丈夫です。
このお寺がクレイジーな学芸員に難癖つけられても、私は絶対弁護にまわりますぞ!
 
十分すぎるぐらい仏像を満喫して、寺務所へ。
さきほどまでは凍えるぐらいに寒かったが、
軒先に陽が差してきたこともあり、こちらはポカポカ陽気である。
気のいいお寺の方たちにいろいろ教えてもらった。
 
「あの人がこの前来られたよ。あのすごい仏像の知識を持ったテレビに出ている…」
 
なんと、みうら&いとうの最強コンビが『新TV見仏記』の取材で来ておったという。さすがである…。
 
「2月ぐらいに放映されるそうですよ」
 
確かに関西テレビのブログに「新作ロケ無事終了」と書かれている。
仏像マイスターに先を越された…。
余談だが、撮影はやはり1日仕事らしい。スタッフは大変だわね。
 
「八つ墓村の映画の撮影もあったんですよ。渥美清さんがそこに座られてね」
 
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1977年の横溝映画である。
おどろおどろしい作品だが、お寺で金田一耕助役の渥美さんが、過去帳を繰るシーンがある。
 
聞けばいろいろエピソードが出てくるわ。
藤本義一さんが来られたとか、阪神タイガースの某選手も来たなど、結構ここは知る人ぞ知る有名なお寺だったのである。
見仏記で放送となれば、またこのお寺に仏像ファンが押し寄せるだろうか。
 
寺の石段を下りると、三が日ということで、甘酒を振る舞われていた。
生姜が効いていて、実に体にしみた。
 
『本当のところはわからない』ものだらけの古刹がテレビでいかに紹介されるか、楽しみである。
 
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●達身寺
  兵庫県丹波市氷上町清住259
  JR福知山線・石生からタクシーで約20分
  電話0795-82-0762
 

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