金沢で聞く大阪弁(2013年7月・金沢市・善妙寺、本法寺)

金沢に来るたびに思う。
こんなところに住みたいなぁ。
 
それを金沢に住む人に言うと、決まってこう返される。
 
「冬のあのどんよりした空を知らないからですよ」
 

都会から転勤した人が、寒い季節に金沢の鉛色の空を毎日見ていると、
気持ちがどんよりすることを言うという。
 
真実やいかに。
ただ、初夏のすがすがしさで金沢に勝るところはなかろう。
日差しも名古屋ほど強烈でなし、空気が澄んでいる気もする。
卯辰山を登り、浅野川を眼下に収めると、実に気分爽快だ。
 
昔訪れたお寺を目指したのだが、山道を歩けども、歩けども見当たらない。妙齢のご婦人の導きも得たが、たどり着けない。
 
健脚のご婦人には、丁重に頭を下げ、途中のお寺で道を請うことにした。
 
境内には、巨大な日蓮の銅像。
善妙寺と書かれた山寺は、まごうことない日蓮宗のお寺だ。
ブルーンと、芝刈り機の音がする。
職人らしき方に、目指すお寺のことを聞くと、聞き慣れたアクセントの返事が返ってきた。
 
「そんな寺は知らへんなぁ」
 
何と、金沢で流ちょうな大阪弁。聞けば、兵庫県伊丹に住まれていたという。そら奇遇です。なんせ、わたくしも住んでいたんですから。ということで、お互いの故郷言葉で盛り上がり、「しゃーない。にいちゃんがそんなにお寺が好きなら、見ていくか?」と、お寺を案内してもらうことになった。
 
この大阪弁バリバリで、ちょいとコワモテのお方が、住職であらせられた。不思議な感じである。
 
そもそも日蓮宗のお寺に入ること自体が初めてであった。
本堂に上がらせてもらうと、幾分ビックリした。
「南無妙法蓮華経」のお題が、中心に置かれており、両隣に釈迦如来と多宝如来がおられる。その下に、当然ながら、日蓮上人がどっしりとにらみをきかせているのである。
こりゃ、日蓮宗独特の配置やな。それにしても日蓮さんがデカイ…。
 
心地よい大阪弁の説明によれば、このお寺は日蓮宗のお寺さんが共同で管理されているのだという。
 
「わしの寺はもっと麓にあるが、見ていくか?」
 
もちろん、断る理由がない。いつものごとくだが、何の因果か、大阪出身のお坊さんが住職をつとめる本法寺に、お邪魔することになった。
 
お寺は、密集した住宅地の中に同化してあった。
入り口はお寺のようだが、中の建物は、普通の民家のよう。
だが、戸を開けると、色とりどりの祭壇が目に飛び込んできた。
 
「結構かかったんや。かあちゃんに相談したら、そんなんけちらん方がいいんちゃう、と言われてな」
 
明け透けなところが、いかにも大阪出身らしい。
でも、金沢ならではの、金箔があったりの派手な祭壇に、さっきみた配置で、お題目や日蓮上人がおられた。
再び、頭を下げると…。
 
「にいちゃん、こんなんしっとるか?」
 
ごそごそ出されたのは、何と火打ち石!
 
「こんな風にやるんや」
 
黒い2つの石をたたき合わせると、カチッという音とともに、閃光が走った。
 
「難しいんやで。やってみい」
 
では遠慮なく…。
いただいた言葉とは裏腹に、簡単に閃光が飛んだ。
 
心の中で「すんません」とつぶやくと、
また壇のもとからごそごそと。
今度は、日蓮宗でよく使われる妙鉢がでてきた。
(写真がないので、ちょいと商品のをお借りします)
 
「こっちはどうや?」
 
住職は、シンバルのような法具の片方を勢いよくまわし、それをもう片方にゆっくりと合わせる。
すると、ホントに、シンバルのように、カンカンと高い音がこだまするのだ。不謹慎かもしれないが、カッコイイと思った。
 
どれと、シンバルを受け取って、鉦をまわそうとするが、
「アレ、アレッ」
こちらはうまくまわらない。そこで当意即妙に。
 
「コツがあるんや」
 
いやはや完敗。ここは潔く、負けを認めよう。
 
こじんまりした境内には、ハイカラな白いイスが置かれていた。
 
「やることがすんだら、一杯やるんや。顔見知りが通ったら、『どうや?』てな」。コワモテの表情が緩んだ。さらに続けた。
 
「お寺ってのはな、葬式だけやってりゃいいという考えもあるやろけど、それだけではいかん。まずは人を呼ばないと。昔はそんなんやったんやから」
 
住職は、2月には星祭りという行事を行う。
星祭りとは、もとはインドの占星術などに端を発する行事だ。
人間は星の営みで吉凶が決まるという考えから、自らの星や年度の星に祈りを捧げるというものである。
その際、この住職は樽に水を満々とたたえ、それを寺の入り口に置き、ふんどし一つでエイヤと、かぶるのである。
金沢の2月でっせ。
見れば、そのお姿が、柱に飾られている。
 
「星祭りとは、元来そういうものなんや。この頃は、そんなんやるお寺は少のうなってるけどな」
 
お笑いだけではないコワモテの住職。
少しだけ、寒気が走りながら、寺門をくぐった。
 
善妙寺
 金沢市末広町4-2
 JR東金沢駅から2.2キロの卯辰山の道中
本妙寺
 金沢市寺町5-2-37
 北鉄バス・寺町5丁目から北西すぐ 
 お立ち寄りの際は、ご連絡を 電話076-241-7828

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